思いがけずロマンチック
1. 王子様とアイスコーヒー
まるで王子様。
薄暗い階段の踊り場の小さな窓から差し込む光を浴びて、きらきらと輝く栗色の髪。髪の色によく似た透き通った瞳が、まっすぐ私を捉えている。透明感のある肌色と鼻筋の通った綺麗な顔が、あり得ないほど至近距離にあって。
もしかして、塔の天辺から私を救い出してくれるというの?
なんて、柄にもなく妄想。
「大丈夫? 怪我はない?」
呼び掛ける声は心地よい低音で、胸の深いところをくすぐる。風のない静かな水面に零れた一滴の雫のように、波紋を描きながら滲んで広がっていく。
残響に耳を傾ける私は王子様の腕の中で、しっかりと抱き止められていた。
いわゆるお姫様抱っこ。
宙ぶらりんになった足の片方だけがひんやりと感じるのは、きっとパンプスが脱げているから。
だけど、何故だろう。
足だけでなく、手まで冷たい気がする。掴んでいる彼の服が冷たいのか、彼の体温が低すぎるのか。
疑問とともに冷たい感覚を辿った。
核心に迫るにつれて、彼の纏った香りが鼻をくすぐる。王子様らしい爽やかな香り。
だけど邪魔するかのように、ほろ苦く芳しい香りが紛れ漂ってくる。