思いがけずロマンチック
益子課長の顔色を窺ってみるけれど、いつもと何ら変わらない。
織部さんと千夏さんを目撃したと言った時のイヤらしい感じはないから、たぶん私は見られてはいないと思う。
「うん、結婚式にも使ってる部屋があって、雰囲気もいいし落ち着いて食事できるんじゃないかって言われてね」
「でも……大袈裟じゃないですか? 居酒屋でいいと思いますよ?」
広報課長め、余計なことを言ってもらっては困る。
ホテルで親睦会なんて、服装だって悩まなくてはいけない。私だけじゃなく、社内の女子はみんな同じように思うはず。男性にはわからないかもしれないけれど、女子はなにかと大変なのだ。
それに気持ち的に行きたくない。
「じゃあ他にどこがある? せっかく広報課長が提案してくれてるんだし、まだ何にも決めてなかったからいいでしょう?」
「今から探せばいいじゃないですか? それとも社内でアンケート取ります? いくつか候補を挙げるんです」
我ながら名案。きっと皆、ホテルなんて大袈裟だから嫌だと答えるに決まってる。駅から近い居酒屋に軍配が上がるだろう。
「ダメだよ、広報課長は本社の社長から提案されたんだから」
「ルーチェの社長ですか?」
聞き返すと、益子課長は大きく頷いた。にやっと口元に笑みを浮かべて。
悔しいけど負けた。社長の提案なら仕方あるまい。