思いがけずロマンチック
混乱しながらも説明資料を一部作って封筒に突っ込んで、急いで会社を飛び出した。
まだ本社には着いていないとしても、電車に乗ってしまっている頃かもしれない。有田さんの後ろ姿を思い浮かべながら駅へと全力疾走。すれ違う人たちが、何事かと驚いた顔をして振り返るけど構うものか。
とにかく早く、有田さんにこの書類を届けなければ。走って走り続けて駅に着いたけれど、有田さんの姿は見つけられない。
もう間に合わないかもしれない。半ば諦め気分を抑えながら切符を買うため券売機に並んだ。上がった息を整えることのできないまま路線図を見上げる。
「唐津? こんな所で何をしてる?」
背中越しに名前を呼ぶ声が、一瞬で乱れた息を落ち着かせてくれた。代わりに胸の奥底から、じわりと熱いものがこみ上げてくる。
そして、一気に身体中の力が抜けていく。
「有田さん、よかった……」
声が掠れて、続く言葉が出てこない。踏み出した足がもつれて、視界に映る有田さんの姿が滲んだ。知らず伸ばした手を有田さんが受け止めて、握り締めた封筒に目を留める。
「これは何だ?」
「説明資料です、中身が抜けていたので届けに来ました」
「わざわざ? 電話してくれればよかったのに……」
有田さんの前にスマホを差し出すと、驚いた顔でジャケットのポケットを探り始める。スマホが無いことにようやく気づいた有田さんは、大きく息を吐いた。