思いがけずロマンチック

「すみませんでした、有田さんのジャケットを預かった時にポケットから出していたんです、お返しするのを忘れてて本当にすみませんでした」

「いや、謝らなくていい。確認しなかった俺も悪いんだ、届けてくれてありがとう、助かったよ」


平謝りする私を優しくフォローしてくれるなんて。申し訳なくて、再び視界が滲み始める。


「気にするな、拭き取ってくれたことも届けてくれたことも感謝してる」


ずるずると自己嫌悪に堕ちていく気持ちを有田さんが引き留めてくれた。無意味に力の入った私の肩に手を置いて。
見上げると目を細めて、にこりと微笑んだ。絡みついた糸が解けていくように、はらりと力が抜ける。


「ありがとうございます、すみませ……」


言いかけた唇に指が触れた。私の指じゃなくて有田さんの人差し指と中指が上唇を塞いで、僅かでも開くことを許してくれない。


「それ以上言うな、今度言ったら罰則だ」


と言われても答えることもできず、ただ頷くだけ。わかったと何度も頷いているのに、有田さんは塞いだ手を離してくれそうにもない。





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