思いがけずロマンチック
有田さんから連絡があったのは、それからすぐのこと。本社に寄ってから出社すると早口に告げただけで、電話を切ってしまった。私から質問する間も与えてくれないで。
せめて何時ぐらいに戻るのか尋ねたかったのに。よほど時間がないのか、昨日の説明の続きだろうか。
きっとお昼までには帰るはず。
そうでなければ私が困る。せっかく有田さんのためにお弁当を作ってきたのだから食べてもらわないと。
言い聞かせながら仕事を始めたけれど、時計ばかりが気になってしまって仕事どころじゃない。
「唐津さん、聞こえてる?」
コツンと何かを叩く音が私の意識を呼び戻す。
その後すぐに聴こえてきたのは益子課長の粘りっ気のある声。ボールペンの軸でモニターの天辺を何度も叩きながら、眉をしかめて不満を露わにして私を睨んでる。
いつにない強気な態度が気になるけれど、ぼーっとしていた私も悪い。
「すみません、何でしょう?」
「新経営責任者さんの歓迎会のこと、日にちと会場は押さえておいたよ、料理を決めたいんだけど一緒に来てほしいんだ」
「え?」
どうして私が……、と喉元まで出かかっていた言葉をぐっと飲み込んだ。私の反応を予想していたのか、益子課長が口元に意味ありげな笑みを浮かべる。