思いがけずロマンチック
「益子課長、今さっき有田さんと一緒に役員室に入ったよ、追及されてるんじゃない?」
千夏さんは滑り込むように素早く机の陰に屈みこんで、声を潜める。私が気になっていたのはそれともうひとつ。
「有田さん、いつ出社されたんですか?」
「今来たばかりだよ、来てすぐに益子課長を呼んで役員室に入っていくのを見たの」
千夏は見開いた目をくるくると動かして話してくれた。
きっと有田さんは昨日のことと、これまでのことを厳しく追及してくれているのだろう。ただ気がかりなのは益子課長が素直に白状するのか。証拠はないからしらばっくれるかもしれない。
「どうせならクビにしてほしいけど、そこまではできないんだろうね……誰か代わりの人が居たらいいけど」
「ですよね、今は他に代わる人がいないから仕方ないですね、いっそ本社の総務がまとめて管理してくれたらいいのに」
「名案だね、同じ会社だったら分けなくても一緒にしてもらったら、莉子ちゃんも営業に専念できるのにね」
以前に有田さんも話していたけれど、ふたつの会社の別々の仕組みを統一していくことは必要だと思う。どちらが効率がいいか吟味して、より良い方に合わせていくべきだと。
千夏さんとふたりでこっそりと言いたい放題。
その真っ最中、床を踏み鳴らすような足音に続いて役員室のドアが乱暴に開く音が聴こえてきた。