思いがけずロマンチック

きっと益子課長は有田さんに相当追及されたのだろう。それで腹を立てたのに違いない。

何か罰を受けたのか、処分はわからないけれど今後おとなしくなってくれるのかは謎。人目も気にせず腹を立てていたということは、少しも反省していないとわかったけれど。

もしかしたら、また何か企んでいるのかもしれない。


そんなことを考えながら、役員室のドアを叩いた。もちろん有田さんにお弁当を渡すために。
もう間もなくお昼休み。午前中は慌ただしかったけれど、ギリギリ渡すことができそうだ。


「昨日はありがとう、幹部への説明は無事終わったよ」


まさか第一声でお礼を言われるとは思っていなかったから怯んでしまった。お弁当の入った紙袋を有田さんに差し出したまま、何にも言えなくなってしまう。

すると有田さんが立ち上がって、すっと紙袋を取り上げた。


「これは?」


紙袋の中を覗いて、首を傾げる。
わかっているくせに何を今更。昨日と同じ紙袋、中身も同じ袋に包んでいるから一目でわかるはずなのに、シラを切るなんてどういうつもりだ。


「見てわかりませんか? お弁当です、約束通り作ってきました」

「そうだったな、ありがとう、頂くよ」


今思い出したと言わんばかりの態度が気に入らない。


だけど本当はどうなんだろう? 
とぼけているだけなのか、それとも本当に忘れていたのか? 


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