思いがけずロマンチック
昼休みが明けてすぐに益子課長が外出した。港ホテルに歓迎会の打ち合わせに行き、そのまま直帰すると言い残して。
直帰だなんて打ち合わせにそれほど時間が掛かるのか、正直なところ疑問だけど。
「よかったじゃない、いない方が気分が楽でしょう」
千夏さんが私の気持ちを代弁してくれる。
確かにいない方が楽。だけど本当に居なくなったら総務課の仕事を取り仕切ることのできる人がいない。誰か代わりの人がいたらいいのだけど……
「そうなんですけどね、まだ何か企んでいそうで怖いんですよ」
声を押し殺しつつ、視線は千夏さんではない別の場所へ。屋上のベンチに座り、ひとりでお弁当を食べている有田さんの背中へと。
千夏さんと二人、屋上の出入り口に潜んでいる姿はまるで探偵のようだ。ターゲットは昼休みの時間をズラして、こっそりと私の作ったお弁当を食べてくれている。
「何かあったら真っ先に彼に助けを求めたらいいのよ、彼もヤツを要注意人物だとわかってるんだから」
「はい、もちろんそのつもりです」
「か弱いところを見せたら男はぐらっと傾くものなのよ、守ってあげなくちゃと思ってね」
「それは千夏さんの経験ですか?」
「さあ〜、それはどうかな?」
ドアの陰でひそひそと話していると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。とっさに口を噤んで息を止めて、耳をそばだてる。