思いがけずロマンチック
軽やかな足取りで姿を現したのは織部さん。階段を上りきった後、ふうと大きく息を吐く。
私たちを見て、「こんな所に……」と言いかけた言葉を飲み込んだ。千夏さんが唇の前に人差し指を立てて目で合図したから。
黙って頷いた織部さんは屋上を覗き込んで姿勢を低くする。
「ちょっと、話がある」
織部さんの声はさっき千夏さんと私が話していた時以上に小さくて慎重。強張った表情から、何かただならぬことを言おうとしていることがわかった。
きっと良くないことだろうと私にでも予想できたけれど。「なに?」と千夏さんはあえて軽く返す。何にも感じ取っていないかのように。
それでも織部さんの表情は固く、いつもとは違うまま。
「外出ようか? 二人とも大丈夫か?」
ここでもし私たちが『大丈夫じゃない』と答えたとしても、きっと織部さんについて行くことになるだろう。無理やりに連れて行かれるか、外ではないとしても休憩室かどこかへ。
「わかった、ちょっとだけだからね」
もったいぶった返事を吐いて、千夏さんが私の手を握る。
「私も……ですか?」
引っ張られながら僅かな抵抗を試みた。何をされる訳ではないけれど、なんだかついて行くのが怖いと感じてしまったから。
「ああ、二人に来てほしいんだ」
振り返った織部さんに笑みはなく、低い声がますます不安を呼び起こす。