思いがけずロマンチック
平日の昼下がり、会社から程近い公園は閑散としている。近所の年配の女性は買い物帰りだろうか、カートを押しながら静かに通り過ぎていく。
そんな景色を眺めながら、私たちは公園の遊歩道沿いのベンチに腰を下ろした。それぞれコンビニで買ったコーヒーを片手に、どこか落ち着かない空気を抱えて。
よく晴れた空を見げて深呼吸。織部さんが千夏さんと私とを交互に見てから、覚悟を決めたように口を開いた。
「午前中客先に商談に行ったら本社の営業のヤツと会ったんだ」
「え、何? もしかしてお客の取り合い?」
真っ先に千夏さんが食いつく。実は私も同じことを思いついていた。
これまでにもお客様が複数の会社から見積を取って競合させるということは多々ある。もちろんお客様は他社と競合させているなんて言わない。なかには何社か比較させているのだと、あからさまに値引きを迫るお客様もいるけれど稀だ。
ところが織部さんは大きく首を横に振って否定する。
「いやいや、そうじゃないんだ。たまたま同じビル内の他の客で、エレベーターで一緒になったんだ」
「そういうことだったんだ、どうして本社の人だってわかったの?」
ほんの少しがっかりしたような、だけどほっとしたようにも見える表情で千夏さんが問いかける。