思いがけずロマンチック
「ということは、総務の姐さんも?」
「もちろん、管理部長が大事な彼女を見捨てるわけないだろ……サイテーだな」
織部さんが大きな溜め息を吐いて、椅子に腰を下ろした。肩を竦めてとぼけた顔をして見せるけれど、内心は悔しさでいっぱいだろう。
私だって悔しくて堪らない。
総務課の姐さんは四十代半ばのバツイチ。妻子ある管理部長との関係は秘密裏のつもりだったのだろうけど、どこからともなく流れた噂は大半の社員の耳に届いていた。
「ズルいよね、自分たちだけ逃げるなんて」
千夏さんの口から溢れた言葉は、私の心の声の代弁か。腹立たしさと虚しさが渦巻いて、どろどろ淀んだ気持ちに変わっていく。
ぎゅっと歯を食いしばっていないと、嫌な言葉が飛び出してしまいそう。
これまで頑張ってきたのは何だったんだろう。
「みんな自分が可愛いんだよ、とりあえず俺らは課長が戻ってくるのを待つしかない、考えるのはそれからだな」
織部さんの作り笑顔に、千夏さんが目を伏せる。
視線を落とすと、織部さんの握り締めた拳を震えている。本当は今すぐにでも千夏さんの肩を抱き寄せて、優しい言葉をかけてあげたいのかもしれない。