思いがけずロマンチック
私が規則を変えてほしいと何度頼んでも断固として曲げようしなかった。少しだけでも話を聞いてくれなかった有田さんがまさか。
「社内恋愛してたんだって」
いっそう押し殺した織部さんの声が、ずっしりと背中にのしかかる。
さっき織部さんのから『規則違反』と聞いた時、既に予想はしていた。社内恋愛禁止の他にどんな規則があったのか忘れてしまっていたけれど、真っ先に思い浮かんだのが社内恋愛禁止だったから。
いや、違う。本当は一番否定したかった。
有田さんが犯した規則違反と聞いた時から、社内恋愛だけは避けて欲しいと願っていたんだ。
今まで明るく澄んでいた空の色が、閑散としながらも穏やかな空気に包まれた公園が、暗く黒い色に染まっていく。ぎゅうっと胸を鷲掴みにされたような息苦しさに耐えるのが精一杯。
「ウソ……でしょ?」
掠れる声で千夏さんが問いかける。言葉が出せないでいる私を見つめて、織部さんが小さく首を振った。
「俺もそう思ったんだ、あの人からは考えられないから……でも実際に本社の社員に知られてるぐらいだから事実なんだろう」
息を吐いて項垂れる織部さんにつられて、千夏さんも肩を落とした。
もう何にも言えないし考えられない。
頭の中は真っ白ではなくて暗い灰色に覆われている。言葉のひとつも見つからないし、自分が顔を上げているのか何を見ているのかさえわからない。