思いがけずロマンチック
「とりあえず作戦は中止しよう」
千夏さんが言ったのは有田さんをゲットする作戦のこと。
それよりも自分たちの今後のことを心配しなければいけないのかもしれない。
有田さんが私たちの会社に来たのが左遷だというのだから。少なくとも本社の人たちは有田さんのことも、私たちの会社のことも良く思ってはいない。
私たちの会社は潰れてもいいという認識だから、本来規則違反で処分すべき有田さんを責任者として派遣したのだろう。
「ウチの会社を立て直せるのなら罪を許すとか、上司から言われているのかもしれないな」
ぼそっと言った織部さんの言葉が胸に突き刺さる。
どうしてこんなにも苦しいんだろう。
有田さんの罪は社内恋愛したこと、つまり本社に彼女が居るということだ。彼女は罰せられたのだろうか。
「有田さんは左遷されて、彼女の方はどうなったの?」
またもや千夏さんが私の疑問を代弁してくれる。本当は気になって仕方ないけれど、今は聞きたくない複雑な気持ち。
「彼女は退職したらしい、自分から辞めたのか解雇されたのかはわからないそうだ、あの人は営業で実績を上げてたから左遷だと」
「そう、退職したんだ……」
その後の言葉は千夏さんの口から出てこない。今こそ代弁してほしいのに、本当は一番知りたいことなのに。自分の口からはとても言えない。