思いがけずロマンチック

どうして私が怒られなきゃいけないんだろう。


「少し引っ掻いてしまっただけです、私がひとりでしたことですから有田さんには関係ないです」

「関係ないことはない、だから手伝うと言ったんだ、ひとりで勝手に行動した結果がこれだろう」


有田さんが力をこめて言い放つ。私の手を掴んだ手にも力が入るから痛くて迷惑。


「だから謝ったじゃないですか? もう放っておいてください」

「放っておけない、君はそそっかしいから……」


語尾が頼りなく消えて、有田さんが視線を落とした。足元に何か落ちたのかと思って視線を追ってみたけれど、何にも落ちていない。

それよりも何を言ったのか、聞き取れなかった言葉が気になった。


「さっき何て言ったんですか?」


有田さんは言いにくそうに唇をもぞもぞ動かしたり唇を噛んだり。足元に落ちた視線はふわりと泳ぎながら部屋を巡って、私の手の傷へとたどり着いた。


「厳密に言うと、これは労災だ」


あまりにも予想外で大袈裟な言葉が有田さんの口から零れた。はなっから反論するつもりだった私は何を言い返したらいいのかわからなくなって唖然とするだけ。



しかも労災とか言われてしまっては、自分が悪いことをしてしまったような気になってくる。反論する気力が一気に萎んでしまった。




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