思いがけずロマンチック
千夏さんと織部さんは付き合って二年のいわゆる社内恋愛。但し総務課の姐さんと違って、二人の交際は社内では知られていない。
千夏さんがこっそり夢を語ってくれたのは先週のこと。織部さんとの結婚を決めたのだと。頬を赤く染めながら描いた未来を話す千夏さんは、いつもよりも綺麗で輝いていた。
それなのに、こんなことになるなんて。
後ろの席を振り向くとふたつ年上の先輩が、パソコンのモニターを真剣に覗きこんでいる。どうやら求人サイトを見ているらしい。気持ちの切り替えが早いのか、悲観的するのではなく前向きで羨ましい。
事務所の奥の方では去年入社した子が、あっけらかんと談笑しているのが見えた。
「いいよね、若い子はまだやり直しやりがきくから」
溜め息混じりの千夏さんの声が胸を締め付ける。
「運が悪かったんだよ、今が一番底なんだ、あとは浮上するだけ」
織部さんが大きく頷く。
千夏さんが、思い出したように振り向いた。
「莉子ちゃん、今のうちにクリーニングに出しておいでよ、きっと課長たちはまだ返って来ないとから」
「はい、ちょっと走ってきます」
コートを抱えて駆け出しながら、自分に言い聞かせる。
今は辛いかもしれない。
だけど私たちは、高く飛び上がるために踏み込んだところなんだ。