思いがけずロマンチック
7. 王子様とびしょ濡れの心
いつもより早く家を出て、出社前に会社の近くのコンビニに寄った。朝食にドーナツとコーヒーを昼食にはパンとサラダ、それから新発売のチョコレートとコーヒーも忘れずに。
ビルに入るとエントランスはがらんとしてエレベーター待っている人はいない。それでも足はいつものように階段へと向かう。片手には買い物袋を提げて、もう片方の手にはアイスコーヒーのカップを握りしめて軽快に階段を上がっていく。
二階を超えたところで後ろから足音が聞こえてきた。
テンポ良く踏み鳴らしながら迫る足音が耳障りで、私は引き離そうとペースを上げる。足を踏みはずさないよう慎重に、買い物袋を持ち替えて空いた片手で手摺りを握りながら。
やがて足音は駆け足に変わって距離を縮めてくる。もう追いつかれるのは時間の問題だ。
踊り場を回る時に振り向いたら僅かに黒い影が映った。
「唐津、おはよう、早いなあ」
私を呼び止めたのは織部さん。一段飛ばして駆け上がってきたけれど、少しも息は上がってない。感心するのと同時に肩の力が抜ける。
ほんの少しだけでも期待した自分が恥ずかしい。