思いがけずロマンチック
「そういえば、笠間さんの企画は順調に進んでるのか?」
笠間さんが手すりにぶら下がるように振り向いた。ちょっとバランスを崩して足を踏み外したりしたら、あの腕で体を支えることができるのだろうか。
「はい、完全しました、有田さんに見直すように言われてやり直したんです、あとは当日を迎えるのみです」
「やり直したのか? そんなことまで口出しするのか……営業だったから黙っていられないのかなあ?」
「そうだと思います、あちらの会社のやり方を教えて頂きました。おかげで良い企画に仕上がったんですよ」
最初は何を言い出すのかとかなり抵抗はあったけれど、有田さんの言うことは間違ってはいなかった。
有田さん自身の経験からの提案は、今までの私の視点とは違っていたから新鮮だった。これまで思いつきもしなかった考え方を知ることができたのは、私にとって大きな収穫になったのは間違いない。
「それは良かった、唐津の営業としての最後の仕事だから気を遣ってくれたのかもな」
「はい、有田さんには感謝しています」
いっそ経営責任者としてではなく、営業を取り纏めてくれたらいいと思う。そう言ってしまいたかったけれど口を噤んでしまった。