思いがけずロマンチック
「おはようございます」
ちょうどいい所に来てくれた、と言いたかったけれどそれは我慢。
目が合うと有田さんは小さく頷いた。表情の何処かしらに焦りが感じられるのは気のせいではなさそうだ。これから私に至急の仕事を頼むつもりなのかもしれない。
「どこかへ出かけるのか? 話があるんだ」
「いいえ、ちょうど伺うところでした、何でしょうか?」
やっぱり来たかと身構える。
データ整理か、それとも……
「笠間さんの件で話がある、少し時間をもらえないか?」
ぞわりと胸の奥が揺らいだ。
最初に目が合った時から有田さんの表情には焦りの色が滲んだまま。有田さん自身は気にも留めていないのかもしれないし、きっと気づいてもいないのだろうけれど。
さっき織部さんが言ってたことが頭の中に浮かび上がった。
『笠間さんの店の近くで再開発計画がある』
あの時の織部さんの表情と声、話した後に残っていた黒い影までもが疼き始める。もしかすると有田さんが話そうとしていることと関係があるのかもしれない。