思いがけずロマンチック
思いのほかクリーニング店が混んでいたおかげで、戻ってきた時には事務所の雰囲気が一変していた。
全社員が起立して、静まり返った事務所の中央部を見つめている。全社員総立ちなんて今まで見たことがない。課単位の朝礼が、全社員規模で行われているような仰々しい感じ。
ドアを勢いよく開けなくてよかった。危うく皆の注目を集めてしまうところだ。
とりあえず音を立てないように、身を屈めながら自席を目指す。
皆が注目する先で誰かが話している。隙間から覗いてみたら若い男性のようだけど、どこかで見たことある?
「あっ……」
思わず声が漏れた。男性のスーツの色は濃いグレー。
見た見た、今朝会ったばかり……
「莉子ちゃん?」
身を屈めたまま絶句する私の視界の端から、ひょいと千夏さんの顔が飛び込んだ。思わず尻餅を着いてしまった私の傍に、千夏さんが屈みこむ。
「あの人、何者ですか?」
声を潜めて指差した男性は、今朝階段で助けてくれた人。濃いグレーのスーツの襟元とシャツの汚れを確かめようと目を凝らすけれど、ここからではよく見えない。