思いがけずロマンチック
「ルーチェ・クリエイトの有田(ありた)さん、ウチの会社を再建しに来たんだって」
千夏さんの声が頭上をすり抜けていく。
なんてこと、まさか彼がライバル会社の人だったなんて。
悪い夢を見ているのか、それとも誰かに嵌められたのか。もしかすると社内の誰かが仕掛けたドッキリかもしれない。なんて馬鹿な考えばかりが頭を巡るけれど、そんな訳あるまい。
よりによってあんな最悪な出会い方をした人。もう二度と会うことはないと思っていた人が、会いたくないと願っていた人が、会社を再建しに来た新たな経営責任者だなんて信じられない。
頭の中は会社の倒産よりも、自分の犯した失態と羞恥心でいっぱいになっていた。
「いわゆる乗っ取りだね」
千夏さんが不満そうに呟いたけれど、まったく耳に入らない。
『ルーチェ・クリエイト』は数年前から急速に業績を上げてきた同業者。彼らの飛躍が私たちの会社を圧迫し、倒産へと追い込んだと言ってもおかしくない。
現にこれまでいくつものクライアントが盗られたという話も聞いたことかある。正直なところ、良い印象なんて全くない。