思いがけずロマンチック

撮影に熱中していると、背中越しに笠間さんの声が聴こえた。丁寧な口調から誰かお客さんが来たのだろうと想像できる。きっと常連さんか仕入れ先の方だろうと思いつつ笠間さんの方へと振り向いた。


笠間さんの後ろ姿の向こうにいる人を確かめた瞬間、カメラを持つ手に力が入った。
すぐに背中を向けてしまえばいいのに、せめて目を逸らせばいいのに突っ立ったまま動くことがない。


見たくない、会いたくなかった人がここに居る。


笠間さんの声をかき消すような笑い声。力強さと威圧感に満ちた声の主が、私に気づいて笑みを浮かべた。


「また会ったね、ここで仕事?」


笑顔で問いかける声に反して、口調は威圧感に満ちている。黙って頷いて答えたけれど怖くなんかない。彼に対して声を出して答えたくないだけ。


どうしてこんな所にいるの? 
心の中で問い詰めた。


「九谷さん、おふたりはお知り合いですか?」


事情なんて知らない笠間さんが悪気なく割って入ってくる。


「ええ、唐津さんとは大学の同級生なんですよ」

「そうだったんですか、もしかすると久しぶりの再会ですか?」

「いいえ、少し前に港ホテルで会ったばかりです」


笠間さんの顔が僅かに強張った。
きっと誤解しているに違いない。余計なことを言わないでよ……と苛立ちながら息を吸い込む。
< 161 / 228 >

この作品をシェア

pagetop