思いがけずロマンチック
「誤解しないでください、唐津さんとは何にも関係ありませんから、私は別の商談で訪れていたんですよ」
私が訂正する間もなく九谷君があっさり訂正してしまう。否定したかったのはむしろ私の方だ。訂正するなら余計なことを言わなきゃいいのに、腹立たしくて仕方ない。
「商談ですか、相変わらずお忙しいのですね」
「忙しい方が性に合ってますから、彼女は上司とご一緒だったけれど……確かあちらに居る方だったはず」
と言いながら九谷君が視線を向けた先には有田さん。他のブースを真剣に見て回っているからか、私たちにはまったく気づかない。
笠間さんが有田さんに気を取られている間に、九谷君は私を見下ろして意味深に目を細めた。そこまで言う必要なんてないでしょう、と睨んで返すけれど知らん顔でかわされてしまう。
「有田さんですね、今回のイベントでは唐津さんとおふたりにお世話になったんですよ、おかげで準備も万端です」
「それは良かった、私にも何か手伝えることがあればと思って来たのですが遅かったようですね」
「お気遣いありがとうございます」
笠間さんと九谷君が再び談笑を始める。
もやもやした腹立たしさを残しながら、私はそっと二人から離れた。