思いがけずロマンチック

「悪いけど何を言ってるのかわからない、仕事の邪魔するなら帰ってください」


言い放って背を向けた。早々に立ち去ろうとする私を、九谷君は鼻で笑って呼び止める。


「彼の元カノ、だったらどうする?」


息が止まりそうになった。


同時に思い出したのは、有田さんが私の会社に出向してきた理由。公にはされていないけれど本社の一部では知られている黒く塗り込められた有田さんの歴史。


「ああ、これは言わない方が良かったかなあ……」


九谷君が嫌味っぽい声で私を挑発する。
私が何と言って答えるのを待っているのだろう。私がどんな答えを出せば満足するというのだろう。


「教えてくれてありがとう」


さらりと笑顔で返す。少しぐらい笑顔が引きつっていたとしても構わない。挑発に乗せられて食いついたりしたら負けだ。


「社内恋愛は禁止なんだろ?」

「だから何? そんなことあなたには関係ない」


言い返してから気がついた。


どうして九谷君が私の会社の規則を知ってるの? 
やはり、彼女が有田さんの? 



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