思いがけずロマンチック

「すみません、聞いていませんでした。今確認しますのでお待ちください」


すぐに事務所に電話をかけたけれど、益子課長は午後から本社へ行くと言っていた。思い出して電話を切ろうとしたら呼び出し音が途切れて、有田さんの声が聴こえてきた。


「どうした? 今どこにいる?」


第一声から大きな声で、怒っているような強い口調が気にかかる。


「益子課長に聞きたいことがあるんです、まだ戻ってませんよね?」

「本社に行ったまま今日は直帰すると連絡があったばかりだ、今どこだ?」


やっぱりだ、益子課長は午後から本社に行くと言ったら必ず直帰する。だったら携帯電話に連絡するしかない。


今どこにいるのかと有田さんがしつこく問いかけるけれど無視。掲示板にはちゃんと行先を書いてきたのだから問い詰められる筋合いはない。あなたの歓迎会の打ち合わせですとはさすがに言いづらいから。


「ありがとうございます、益子課長の携帯にかけてみます」

「ちょっと待て、今どこだと聞いているんだ」


早々に電話を切ってしまおうと思ったら受話器から大音量。その声は少し離れたところで待っているホテルの担当さんにまで届いていたらしい。驚いた顔で振り返り、目が合うと気まずそうに会釈をした。


きっと事務所の中にも有田さんの声は響き渡ったことだろう。



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