思いがけずロマンチック

「有田さん声が大きいです、掲示板に書いてきました、『くるみ堂』って書いてありませんか?」

「書いてある、だから聞いているんだ、どこにいる?」


有田さんは相変わらず大きな声で吐き捨てるような乱暴な口調で問いかける。外出したからといって、そんなに怒るようなことではないだろう。


だから……って?


「どこって……、笠間さんのお店です」

「いい加減にしろ、嘘をつくな、ついさっき笠間さんが事務所に来たんだ、イベントの御礼を言うために」

「え? 笠間さんが?」


もう返す言葉が出なかった。


どうして笠間さんが? 
事務所に来る前に携帯電話に連絡してくれればよかったのに。
自分勝手でしかない疑問が頭の中を駆け巡り、新た浮かんでくる嘘を次々とかき消していく。


「もういい、今すぐ戻ってこい」


有田さんが大きなため息を吐いて、電話を切ってしまった。


追及されるような嘘ではないはずなのに胸が苦しくなってくる。
私は何にも悪いことなんてしていない。ただ掲示板に嘘の行き先を書いていただけ。


ホテルの担当者には、遅れてくる人数の件は益子課長から改めて連絡すると告げて、重い足を引きずりながら事務所へと戻った。

< 169 / 228 >

この作品をシェア

pagetop