思いがけずロマンチック

「ライバルに乗っ取られるのは悔しいけど、失業しなかっただけマシ……なのかもね」


と言った千夏さんの言葉が、きっと皆の本音だろう。


今まで通りの給料と待遇も約束すると、新経営責任者は言った。会社の経営母体が変わるだけで、基本的に今までと変わらず仕事を続けられるのだ。
たとえ感じの悪いライバル会社とはいえ、今は感謝すべき存在なのかもしれない。


私も皆と同じ気持ち。入社三年目、ようやく軌道に乗ってきたところだった。今日限りで失業なんて言われたとしたら、これからの事なんて想像もできない。


だけど私が皆と違うのは、今朝大きな失敗をしているということ。よりによって会社を再建しに来たというあの人に対して、とんでもないことをしてしまったのだ。


事務所は安堵の空気に包まれていくけれど、私はまだ安堵することはできない。
できるだけ早く謝罪しなければ。


ところが新しい経営責任者の彼は、慌ただしく会議室に引きこもってしまった。


いつ謝罪することができるのか、私は当分悩むことになりそうだ。