思いがけずロマンチック
「新店舗の件はいいんですか?」
「うん、それは改めてお願いするとして、今回は仕事を忘れてゆっくりと世間話でもどう?」
「わかりました、私は笠間さんのご都合さえよければいつでも構いませんよ」
仕事ではないと聞いてひと安心。それなら有田さんに同行してもらう必要も、報告する必要もないだろう。
「よかった、ありがとう。また連絡するよ」
「はい、失礼します」
すっかり気持ちが軽くなったせいなのか、電話越しに頭を下げてしまった。笠間さんには見えていないというのに。
気分良く電話を切って一呼吸。
「笠間さんの都合がどうした?」
背後から投げかけられた声が一瞬で私を硬直させた。
私の真後ろには有田さんが険しい顔をして立っている。そんなに長時間話しているつもりではなかったのに、もうお弁当を食べ終えてしまったのか。
「有田さん……、笠間さんの都合というか、私の都合というか……でも商談の話ではないんです」
「では、何の話だ?」
しどろもどろに答える私はいかにも不自然。隠す必要などないはずなのに何を話しても疑われてしまいそうで、どう説明すればいいのかわからない。