思いがけずロマンチック

「こちらこそありがとう、本当に助かってるし気持ちは嬉しいが……もうやめてほしいんだ」


有田さんの口から零れてきたのは御礼と、もうひとつは意外な言葉。お礼の言葉は柔らかだけど早口で、後に続くほどゆっくりと確かな重みを感じられる。まるで私に対する圧力のように。


ゆるく結んだ口から再び声が溢れてくるような気がして待ってみたけれど、有田さんは何も言わない。逆に私が話し出すのを待っているかのように口を固く噤んでしまった。
このままでは睨めっこになってしまいそう。


「どうしてですか? 続けてもいいと先日言ったばかりじゃないですか」


意図的に語気を和らげるように首を傾げてみせると、有田さんは苛立ったように小さく息を吐いた。面倒くさいと思ったのが明らかにわかる顔をして。


「あの時は言ったが今は違う、状況が変わったんだ」


面倒くさそうなのは顔だけじゃない。おまけに言葉遣いまで面倒くさそうに感じられる。


そんな面倒くさい顔の有田さんも、話し方をする有田さんも好きじゃない。

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