思いがけずロマンチック
「私に電話ですか?」
「ええ、本社の業務部長からの電話です、かけ直してもらえますか?」
「わかった、すぐに行きます」
急いで駆け出そうとする有田さんを制止するように、益子課長が進み出る。
「急ぐことはありませんよ、業務部長はこれから外出するそうですから…」
「帰社予定は?」
「3時と聞きましたから、もう少しゆっくりされても大丈夫ですよ。お取込み中に失礼しました」
益子課長がぞくっとする笑みを浮かべて背を向けた。ゆっくりと歩き出す益子課長を見送る有田さんの横顔は明らかに引きつっている。
きっと私も同じような顔をしているんだと思う。
取り込み中って何?
益子課長を引き止めて、何か言わなければいけないと思うのに言葉が浮かばない。それどころか頭の中が整理できずに声も出てこない。
ひとつだけ理解できているのは、私たちの状況が非常に良くないということ。私たちを見た益子課長が、誤解しているかもしれないということ。
とりあえず益子課長を引き止めなければ。