思いがけずロマンチック
一歩踏み出した私の腕を有田さんが掴んだ。
「待て、追わなくていい」
益子課長がドアの向こうに消えるのを最後まで見送った後、恐る恐る有田さんを見上げた。有田さんの頭上の雲はさらに分厚く黒さを増して迫ってくる。
ぎゅっと唇を噛んだまま、閉まったドアを睨み付ける有田さんの表情は硬い。
「急がないなら、こんな所まで知らせに来てくれなくてもいいじゃないですか」
この重苦しい空気を少しでも和らげようと思うのに、出てきた言葉にも声にも私の焦りが十分に現れてしまっていた。
それでも有田さんはびくともしない。
私の腕を固く掴んだまま離そうともしてくれない。
私の頭の中は益子課長のことばかり。
益子課長の目に私たちはどう映って、何をしていたと思われたのか。きっと誤解したに違いない。だとしたら、この状況をどう説明するべきか。
こんなつもりじゃなかったのに……
頭の中に慌ただしく浮かんでは消えていくのは後悔。