思いがけずロマンチック
事務所に戻ると益子課長の姿はなく、掲示板には『外出』の文字が大きく書いてある。行先は書かれていないけれど本社に行ったに違いない。
きっと偉い人たちに、有田さんと私のことをあることないこと話すつもりなんだろう。そんなことになったら有田さんも私もクビになるかもしれない。
もしも偉い人に呼び出されて追及されたなら全力で否定しよう。たまたま屋上に行ったら偶然有田さんが居て、ほんの少しだけ世間話をしてただけ。
やましいことなんて何にもない。益子課長が誤解しているだけだろうと。そうしたら信じてもらえるはず、きっとクビは免れるはず。
ただ巡り巡るのは弁解の術ばかり。
「莉子ちゃん、どうしたの? 顔色悪くない?」
千夏さんが顔を覗かせる。心配そうな中に興味が入り混じった表情で、私の椅子の横にちょこんと屈み込んでしばらく居座る格好だ。