思いがけずロマンチック

「有田さんは? 一緒に本社?」

「一緒に居るのかはわかりませんけど予定では本社です、午前中はこっちで仕事して、お昼前から出かけて直帰です」

「有田さんは午前中だけでも仕事してるのに、あの人はずっと一日中本社で何してるんだろうね」

「そのうち本社に異動になるから準備じゃないですか? 私は歓迎ですけど」

「莉子ちゃんも言うね、そうだね、極秘に調整しているのかも……だったらいいなあ」


千夏さんと一緒に理想を胸に抱いて遠い目をしていたら、慌ただしい足音とともに有田さんが帰ってきた。


まさか戻ってくるとは思ってなかったから驚いて、ぽかんとした間抜けな顔を戻す間も無く目が合ってしまった。


恥ずかしさの余り声も出ず、会釈するのがやっとの状態。私の隣で屈んでいる千夏さんは、素早く頭を伏せて隠れたつもり。


「私がいない間、何にもなかったか?」


てっきり素通りすると思っていたのに、有田さんは足を止めた。入り口のパーテーション越しに覗き込む表情は猜疑心に満ちている。


「はい、何にもありませんでした」


有田さんの猜疑の視線を避けながら頷く。




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