思いがけずロマンチック
私の新しいクライアントの笠間(かさま)さんもそのひとり。
「すごく貴重な体験をしたんですね、人生に一度あるかないかですよ?」
受話器の向こうで高笑いする。
今はお店に居ると言っていたのに周りの人が驚かないかと、こちらが心配するぐらいの大きな声だ。
笠間さんは地元の小さな洋菓子店のオーナーで、来月の連休に開催される港陽百貨店への催事への出店に向けて交渉を始めたところだ。
「こんな体験、全然貴重じゃありませんよ」
「十分貴重だよ、滅多に体験できることじゃない。近いうちに覗きに行くよ」
「いいえ、私がお店に伺います。またご連絡させていただきます」
「了解、楽しみにしてるよ」
笠間さんは最後まで笑いながら電話を切った。
笠間さんは私より5歳上の30歳。歳が近いからなのか人柄なのか、笠間さんは最初から友達のような口調で話してくれる。
おかげで緊張しないで済むのだけど、会社の再生ができなければ笑ってはいられなかっただろう。