思いがけずロマンチック

有田さんに呼び出されたのは会議室。定時前だったから、できればややこしい仕事ではないことを祈りながら席に着く。


真正面に座った有田さんは手元の書類に視線を落としたままで、すっかり私の存在を忘れているようだ。呼び出しておきながら失礼極まりない。
咳払いしたけれど無視を決め込んでいる。


「御用は何でしょうか?」


堪らず問いかけたら、ようやく顔を上げた。書類の束から一枚抜いて私の前へと滑らせた。そこには全社員の所属と担当が羅列されているだけ。なんて事ない名簿だと思われる。


「見ての通り我が社の名簿だ、ここに書いてある全社員の現在の手持ちの仕事と進捗状況について纏めてほしい」

「全社員ですか? 期限はいつまでですか?」

「明日午前中には欲しい、俺も手伝うつもりだが今からもう一件打ち合わせが入っている、無理を言って申し訳ない」


全社員の仕事の進捗状況なんて、こんな時間から頼まれるような仕事じゃない。
もうすぐ定時になろうという時間。帰る気満々の社員にメールを送信したところで大半はスルーされてしまうのは目に見えている。今日休暇の社員も居れば既に外出して直帰するつもりの社員だっている。ひとりずつ訊ねて回るしかないとしても明日午前中の期限は厳しい。


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