思いがけずロマンチック

考えるだけで疲れてしまう仕事。そんなデータを集めたところで何に使うのか、なんて訊ねたところで丁寧に目的を話してくれるはずもないだろう。


それよりも千夏さんに残念なお知らせをしなければならなくなったことが心苦しい。もう歌なんて選ぶことも練習することもできない。どう考えても諦めるしかない。


全社員にメールを送信し終えてから、席に着いている社員にひとりずつ事情を説明して回る。たいてい返事は決まっていた。


『急ぐの?』
『今日中でないとダメ?』


「すみません、本社からの指示でどうしても今日中にデータを纏めないといけないんです」


手を合わせて頼み込むと、しぶしぶ承諾してくれる。みんな悪い人ばかりではないのだから。そして私への同情よりも『本社からの指示』の力の方が間違いなく大きいのだ。


「唐津さんもこき使われて大変だね、急に仕事の進捗を集めて何のつもりなんだろうね」


労いの言葉と同時に投げかけられた疑問の言葉は、ちょうど私が抱いていたものと同じ。有田さんがやって来て、会社が新たな体制でスタートした時に業務分担や現状については既に確認済み。


今更、同じことを繰り返すなんて本当にどうかしてる。


有田さんの意図がわからなくなってきた。


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