思いがけずロマンチック
決して隙を見せないようにと睨んで返したのに有田さんは答えない。表情を変えないままで、するりと私の腰に手を回して引き寄せた。
エレベーターの扉から背中が離れて、有田さんに操られるように体がくるくる回りながらエレベーターホールから遠ざかっていく。完全にエレベーターの扉が見えなくなったところで足が止まり、エレベーターの到着を告げるチャイムの音が聴こえてきた。
有田さんと私はエレベーターホールのすぐ隣ある自販機コーナーにいる。ちょぅどエレベーターからは見えない場所だけど、私の視界は有田さんの体に遮られてしまっていた。
私の腰はしっかりと有田さんの手で支えられていて、いったい何のつもりなのかわからない。
腰の手を振りほどこうとした瞬間に、ぐいと引き寄せられてしまった。
「唐津莉子、諦めるな」
さっきよりもずいぶん低く力強い声が頭上から降ってきて、浮かんでいたはずの言葉をかき消してしまう。
疲れ切っていると思っていた有田さんの口からは想像できない張りのある声と、私を抱く腕の力強さが私の動きを封じ込める。