思いがけずロマンチック
どうしてこんなことを?
『諦めるな』って何?
本当は聞き返したいのに何から言えばいいのか、考えることもできなくなっていく。
ただ、頬から伝わる鼓動を追いかけるのが精いっぱい。こうして感じている鼓動さえ自分のものなのか、有田さんのものなのかわからなくなってくる。夢か現実なのかさえ。
私は混乱してる。
そう気づかせてくれたのは鼓動とは違う振動を感じたから。私の肩に提げたバッグの中でスマホが激しく震えている。
「あっ、すみません」
私の声に驚くように有田さんの腕が弾けて解けた。よろめくように後ずさって、私の視界から消えていく。
バッグの中に手を突っ込んで必死に探っているうちに、スマホは鳴り止んでいた。静かになったスマホを取り出す私のそばで、有田さんが小さく息を吐く。
「悪かった」
申し訳なさそうにひとことだけ。溢した有田さんは、私の視線を避けるようにエレベーターホールへと戻っていく。