思いがけずロマンチック
ひと通りクライアントへの説明を終えて、ようやく落ち着いたところに千夏さんがやって来た。眉間にしわを寄せた悲壮な顔が、なにやら良くないことがあったことを窺わせる。
「莉子ちゃん、私……総務課に異動になるの」
千夏さんは震える声で吐き出した。
姐さんが早々に逃げ出した総務課には、課長だけが取り残された。課長と言っても実際の業務は姐さんがひとりで仕切ってきたようなもの。
社員数50名にも満たない小さな会社とはいえ、課長ひとりでは業務は回らない。誰かを補充しなければいけないのだ。
「どうして千夏さんが?」
つい本音が出てしまう。
千夏さんは勤続7年目、社内外での評判もよく実績も残している。今さら畑違いの総務課へ異動なんて酷すぎる。だからと言って、他に適任者はいるのかと問われても即答することはできない。
「さっき懇談で言われたの、広報課には女子が三人いるから一人を総務課へ……って、あの人が言いだしたの」
あの人とは新経営責任者の有田さんのことだ。
もうすぐ私の課の懇談が始まる。緊張感とともに込み上げてくる気持ちは、ひとつの決意だった。