思いがけずロマンチック
『だったら、こんな会社辞めてしまえばいい』
つい口をついて出てしまいそうな言葉をぐっと飲み込んで、固く唇を噛んでひと呼吸。
私にできることはないのか。
私にできることは……
千夏さんが力なく笑った。
「私には人目を気にしながら付き合うスリルを楽しむ余裕なんてない、正直なところ……疲れたのよ」
「やめてくださいよ、諦めないでください、きっと有田さんは規則を変えてくれます」
「無理だよ、あの人だってバレて左遷されたんだよ? そんな権限があるわけないよ」
重い言葉が私の足を引き止める。これ以上進んではいけない、絶対に無理だからやめた方がいいとすがりつくように。
振り解こうとして目を閉じると、小さな光が浮かんだ。
『諦めるな』
有田さんの声が蘇る。
どくんと大きく胸が鳴って、のし掛かっていた重苦しい影が消えていく。
「きっと、必ずなんとかしますから待っててください」
お腹に力を入れて声を絞り出した。何故なのか自分でもわからないけれど、有田さんが背中を押してくれているような気がした。