思いがけずロマンチック
ホテルのロビーや喫煙所や駐車場、会場の周りをぐるぐる巡って会場に戻ってきたけれど益子課長も本社の方々も見当たらない。既に会場にはほとんどの社員が揃って、開宴までの時間を楽しんでいる。
もう諦めよう。
そう思って、最後にロビーをぐるりと見渡したらエレベーターホールへと角を曲がる人影が見えた。
黒っぽいスーツの影が消えたのは一瞬。背の高い男性には違いないけれど体型も髪型も見えなかったから年齢なんてわからない。
だけど、なんとなく放ってはおけない気がした。
エレベーターホールに近くにつれて話し声が耳につく。こんな所で世間話なんてしてないで早く会場に来てくれないと困る。苛立ちを感じながら角を曲がろうとして気がついた。
聴こえてくるのは男性ではなく女性の声。
「どうして信じてくれないの?」
縋るような言葉だけど鋭さの篭った声が私の足を止めた。角を曲がって確かめることは簡単にできるのに、進んではいけないと足が引き止める。
「信じる必要はないと前にも話したはずた」
凛として言い放つ低い声。
決して聞き間違えることなんてない。間違いなく有田さんの声だ。