思いがけずロマンチック
一気に全身に力が入って、鼓動が速度を上げていく。
有田さんが女性と話している。真っ先に浮かんだのは有田さんが本社に居た時に社内恋愛で問題となったという女性だった。
「待って、樹、まだあなたのことが好き」
柔らかな彼女の声が有田さんを引き止める。見えないはずのふたりの姿が頭の中にありありと浮かんでくる。彼女の切迫した口調から、ふたりはそう離れてはいない距離で話していることが想像できた。
どうして彼女がここにいるの?
彼女は有田さんとの復縁を望んでいるの?
「放してくれ、彼と結婚するんだろう? よくそんなことが言えるな」
「違う、彼との結婚は家のため……親が決めた結婚よ」
「何が言いたい? もう俺には一切関係ない」
「どうして冷たくするの? あの頃の樹はもっと私に優しかったのに」
「妄想はやめろ、君とは他人だ、もう二度と会うことも話すこともない」
有田さんは執拗に縋る彼女を否定している。
だけど過去に何があったのか、どんな関係だったのか、考えるほどに頭の中が混乱して胸が苦しくなっていく。脚が小刻みに震え出して立っていられなくて、もたれるように壁に手をついた。