思いがけずロマンチック

もう、王子様には見えなかった。

熱心に仕事に打ち込んでいるひとりの男性。有田さんは会議室で、ノートパソコンのモニターを睨みつけていた。私たち企画営業課のメンバーが入ってきても顔を上げようともしない。


「失礼します、企画営業課のメンバーを紹介いたします」


課長に促されて、一人ずつ自己紹介を始める。すると有田さんはようやく顔を上げた。


間違いない、今朝私がコーヒーをぶちまけてしまった人だ。

気になる彼の胸元を見たけれど、濃いグレーのジャケットにコーヒーのシミは見られない。あの後、拭き取ったのだろうか。
だけど、さすがにシャツは拭き取ることはできないだろう。

確かめようとして、さらに目を凝らす。

ちょうど彼の前に置いたノートパソコンが邪魔をして見ることができない。もう少しパソコンの位置が横にズレていたらいいのに、彼が少し座る位置を横に反らしてくれたら……


いろいろ考えていると、隣りに座っている織部さんに軽く腕を突かれた。振り向き様に織部さんが険しい顔で頷く。
自己紹介の順番が私に回ってきたらしい。



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