思いがけずロマンチック
「本当に結婚するなららあなたのことを本当に思うのなら、過去なんて忘れたらいいのに。いつまでも引きずってても仕方ないじゃない」
我ながらキツい言い方だ。こんなことが言えたのは、有田さんの気持ちが彼女に向かうことはないと密かに思っていたから。
「ああ見えて、彼女にも口に出して言えないことがある、素直じゃなくて……不器用だけど、本当は優しいんだ」
ゆっくりと噛み締めるように言い終えて、九谷君が口角を上げる。
視線の先には有田さんも彼女の姿もない。慌てて見回すと、有田さんが私の後ろに迫っていた。有田さんの数歩後ろで、彼女は時折天井を見上げるような仕草をしている。
九谷君が立ち上がった。
「お互いに、幸せになろうな」
優しい声が胸に詰まっていたものを溶かしていく。
九谷君の差し伸べた手に吸い寄せられるように、彼女は九谷君に身を預ける。
歩き出したふたりは、もう私たちを見ようとはしない。
「さて、荷物をまとめて事務所へ戻ろうか」
有田さんはすっきりした笑顔で歩き出した。