思いがけずロマンチック
挨拶するのは私が最後だ。皆の視線と緊張感がのしかかる中、息を整える。
「唐津莉子です、よろしくお願いいたします」
皆の視線と緊張感がのしかかる中、顔を上げたら有田さんと目が合った。貫かれてしまいそうな鋭い視線を注いだまま、彼は顔色ひとつ変えない。
今朝のことを覚えていないはずはない。あんなに派手に汚したのだから。
まずは半歩下がって深呼吸、気持ちを落ち着かせる。
「今朝はたいへん申し訳ありませんでした、美濃(みの)さんの異動の件でお願いがあります」
ひと息で言い切って、もう一度頭を下げた。
視界の端に映るのは、私に説明を求めて視線を投げかける織部さん。何も言わないけれど皆の動揺が感じられる。
本心は尋ねたくて堪らないのだろうけれど尋ねようとしないのは、有田さんに対する遠慮なのだろう。尋ねられたとしても今は説明している暇はない。
私はここで、千夏さんの異動を取り消してもらうと心に決めて来たのだ。