思いがけずロマンチック
「お客様、失礼します。先ほどの会場にお忘れ物があるそうなので運ぶのを手伝ってほしいとのことです」
少し遠ざかりそうになっていた気持ちが、ホテルマンの声にぐいと引き戻された。
「ありがとうございます、もうすぐ車が着くので、ここに荷物を置いておきます」
きちんと確認したはずなのに、またうっかりしていたようだ。運ぶのを手伝わなければいけないような大きな物なら気づくはずだけど、早く帰ろうと気持ちが焦っていたのかもしれない。
それよりも、有田さんと私のほかにまだ残っている人がいたのかな。
考えを巡らせながらエスカレーターを駆け上がる。
早く戻らないと。有田さんよりも先に。
有田さんに忘れ物をしたと気づかれないうちに。
焦る気持ちと共に会場へと駆け込んだ。
一斉に浴びせられる視線は、会場の後片付けに追われる従業員の方々のもの。一様に驚いた表情を浮かべているが、片付けの手は止めようとはしない。
ぐるりと見渡してみても、忘れ物らしいものはなさそうだ。