思いがけずロマンチック
「どうかされましたか?」


私の一番近くにいる女性が声を掛ける。


「忘れ物をしたので取りに来てくださいと言われたんです」


女性は首を傾げる。


「忘れ物ですか? いいえ、何もなかったです。こちらでは忘れ物は聞いていませんが、もしかすると控え室かもしれません。一緒に……」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


すぐに控え室へと向かった。急がないと、もう有田さんが車に乗って戻っているかもしれない。


控え室のドアを勢いよく開いた。
ノックするのを忘れたと気づいたのは、空っぽだと思い込んでいた部屋に座っている人を見つけた時だ。だけど、やらかしたと思う気持ちよりもすぐに驚きの方が上回る。


笠間さんが私を見て、にこりと笑う。


「唐津さん、お疲れ様」


「笠間さん?」


どうしてここにいるの? 


続けて言いそうになった言葉は声にならず、頭の中をぐるぐる巡る。笠間さんは歓迎会が終わるまで、ずっとここで待っていたのだろうか。控え室を使っていたのは社員だったから、笠間さんが紛れ込んでいたら不自然だ。一度お店に戻っていて、終わった頃にやって来たのだろうか。


いろんな疑問が浮かんだり消えたり、思考を掻き乱す。




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