思いがけずロマンチック
もしかすると、笠間さんが忘れ物を知らせてくれたのかもしれない。


「忘れ物があるって聞いたんですが、笠間さんが知らせてくださったんですか?」


なんとなく疑問を感じながら部屋を見渡した。
だけど、忘れ物らしき物はない。運ぶのを手伝ってというぐらいだから、大きなものか量が多くてテーブルや椅子の下に置いているのかもしれない。
屈み込んで、テーブルの下を覗き込む。


「うん、僕の忘れ物を唐津さんに取りに来てもらったんだ」


笠間さんの声が真上から降りてきて、吐く息が頬を掠める。避けようとして立ち上がった私の肩に、笠間さんは腕を回して動きを止めた。
すぐに離れようとするけれど、抱き締められたまま動けない。


「笠間さん、離してください、すぐに戻らないといけないんです」


早く戻らないと有田さんが待っている。
有田さんを待たせたら怒られる。


顔を上げると笠間さんが優しい笑みを浮かべている。笠間さんの笑顔の向こうにある天井のライトが眩しい。ゆっくりと笠間さんの顔が近づいてくる。


「僕のそばに居てほしい、きっと幸せにする」


口調が強くなって腕の力が増す。


「無理です、好きな人がいるんです! 」


力いっぱい言い放った。
笠間さんの腕を振り解くように、思いを跳ね除けるように。



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