思いがけずロマンチック

ふと笠間さんの腕が緩んだ。
いつの間にかドアが大きく開いて、有田さんが立っている。


「ごめん……」


と、笠間さんは力なく溢して私から離れていく。


こちらへと歩いてくる有田さんは、眉間にシワを寄せて固く口を結んで歩調に荒っぽさが感じられる。絶対に怒っているはずの有田さんの視線が捉えているのは、私ではなく笠間さんだった。


「笠間さん、何かありましたか?」


有田さんの低い声が部屋を重苦しさで満たす。背を向けた有田さんの表情は見えないけれど、背中に感じられる空気は穏やかではない。


「唐津さんに忘れ物を取りに来てもらったんですが、ひとまずこのまま持ち帰りますよ」


笠間さんが力強い口調で言い放つ。有田さんを見据える表情が挑戦的に感じられて怖い。


「笠間さん、その忘れ物は唐津には必要ないですよ。これから先、唐津に必要なものは私が用意するので、ここで捨ててください」


有田さんの力強い声が部屋に響く。
なんだか言ってることがややこしくて、すぐに意味が飲み込めないのは私だけではないらしい。
笠間さんも唖然とした表情で有田さんを見ている。


「それと今後、唐津に用がある時は必ず私を通してください、忘れないでくださいね」


有田さんは私の腕を掴んで部屋を出た。







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