思いがけずロマンチック
「俺が最後に確認したんだから忘れ物なんてあるわけないだろう、なぜ疑問に思わないんだ」
有田さんはずっと怒っている。部屋を出てからも車に乗り込んでからも、車を走らせてからもずっと私と目を合わそうとしない。
時折りハンドルを握る手を離したり、また固く握り直したりを繰り返してばかりいる。不機嫌な言葉が角度を変えて放たれるたびに体が強張る。
「すみませんでした、今後気をつけます」
何度同じ返事をすれば納得してくれるのか、いくら考えてもわからない。有田さんはどんな答えを待っているんだろう。
むしろ正解を教えてほしい。
さっきの忘れ物の話の真意を知りたい。
もしかして有田さんは……などと淡い期待さえ抱いてしまう。
「お前はいつも勝手に行動して俺を混乱させる。今後は一人で行動するな、俺を困らせないでくれ」
有田さんは肩が揺れるほど大きく息を吐いた。
ちょっと言い過ぎじゃない?
そんな言い方しなくてもいいじゃない。申し訳ない気持ちの陰で、ずっと抑えつけられていた反発心が顔を覗かせる。
もう何も話したくないと唇を噛み締めて、窓の外へと振り返った。