思いがけずロマンチック
事務所へと荷物を運び入れる間、有田さんはひと言も話さない。次第に私まで話しかけづらくなってくる。
私が苛立ってるのを少しぐらい察してくれているのか。今後のことや話したいことはいろいろあるけど、たぶん今日はもう話すのは無理だろう。
そう思いながら自席で帰る準備をしていると、有田さんが隣に立った。指先で机の上を軽く二、三度叩いて、
「これからのことを話したい、その前に聞いておきたいことがある、好きな人がいると言っていたが……」
と言った。まるで内緒話をするような小さく控えめな声で。
有田さんの怒りの消えた穏やかな表情が、私の抱いていた苛立ちを焦りへと変えていく。
笠間さんに言い放った言葉をまさか聞いていたなんて。私でさえ忘れかけていたことを、なぜ蒸し返してくれるんだ。
こんな聞き方されて、素直に答えるようなことじゃない。いつか告白できる時がきたら、ちゃんと心の準備をしてから適した時間と場所を選んで真っ直ぐに向き合って伝えるものでしょう。
それに、今はまだ言えない。
言えるわけがない。
「言いました、あれは笠間さんに納得してもらうために咄嗟に言っただけです」
べつに深い意味はないんです、と心の中で付け加える。そんなこと言ってないと否定しようかと思ったけれど、聞かれていたなら答えるしかない。